齋藤 佳奈さん

KANA SAITO

ご所属
東大阪大学柏原高等学校など
参加コース
子ども初任コース
齋藤 佳奈

今回インタビューに応じていただいた齋藤さんは、東大阪大学柏原高等学校大阪府大阪市教育委員会に所属され、委員会からの派遣依頼を受けて「日本語指導員」として子どもたちへの日本語教育支援にも取り組まれています。

こういった活動に携わってこられた齋藤さんがどうしてこの研修に参加をしようと思われたのか、どんな知見を得て、今後にどのように活かしたいと考えていらっしゃるのかをおうかがいしました。

POINT
    • 高校の国際科で「高校生留学生」の日本語教育と進学指導に従事
    • 「子どもの成長や発達段階に応じた言葉の学習」を求めて
    • 支援体制・内容に関する地域間の格差を理解
    • 個々の子どもたちに寄り添う教育・支援をめざして

高校の国際科で「高校生留学生」の日本語教育と進学指導に従事

まず、現在はどのような教育現場で日本語教育を実践されているのか、その現状について少し教えていただけますか。

齋藤おもに、東大阪大学柏原高校の「国際科」という留学生の専門のクラスで、日本語の教科を担当しています。その他にも、大阪市の教育委員会にも所属し、夏休みなど長期休暇中は小学校に派遣され、日本語指導員として子どもたちに教えています。

高校に留学生専門のクラスがあるんですね。今のご活動について、もう少し詳しく教えていただけますか。

齋藤留学生は高校で3年間日本語を学ぶことになっています。日本人の授業でいえば、「現代国語」とか「古典」とか、そういった授業に該当する科目で、「日本語」「日本語表現」という授業があります。それを履修することになっています。私は、そこで、日本語の会話や日本留学試験(EJU)、N1、N2といったJLPTなど大学受験のための授業も教えています。また、高校なので進路指導もしています。

小学校では、プレクラスといった、クラスに入る前の子どもたちの事前の日本語指導やJSLといった就学前の指導もしています。時には、保護者も交えて、学校生活を送るための助言などもしています。

高校の生徒さんたちは、ご家族と離れて、いわゆる「留学生」として来日して日本で高校に通っているということなんでしょうか。

齋藤はい、そうなんです。学校の寮があり、そこに住むことになっています。親元を離れて3年間ずっと過ごしている状況ですね。高校から留学して日本の大学進学をめざしている子どもたちです。

留学の動機や背景はさまざまです。ご両親の強い気持ちで、高校生の時から日本で第二言語として日本語を学び、日本の大学に進学しゆくゆくは国に帰ってきて、よい仕事に就いてほしいという場合や、なかには生徒自身が経済などを日本の大学に進学して学びたい、その後は自分で起業したいということもあり、留学する背景やニーズは本当にさまざまです。

どこの国からの留学生が多いんでしょうか。

齋藤以前はベトナム人が多かったのですが、今年も含めて、ここ3年間は中国人がほとんどです。私が担当している学年も中国人がほとんどで、ベトナム人学生は一人だけです。他校でのことですが、コロナ禍で来日できない時は、オンラインで授業をやっていた時期もありました。

高校生のオンライン留学ってどうだったのでしょうか。以前は、同じ敷地内の寮で一緒に生活しながら留学していた生徒さんたちと、それぞれの国でオンラインで授業を受けている生徒さんたちと、何か大きな違いなどありましたか。

齋藤オンラインなので直接指導ができるわけではなかったので、日本語の伸びや上達といった点では不安な面もありました。その後、少しずつ来日できるようになって学校で実際会ってみると、画面で顔だけ見ていたときと違って、印象が違い戸惑うこともありましたね(笑)。10月になったら、新しく来日する生徒が増えるのでにぎやかになりそうです。

楽しみですね。全体の人数はどれくらいですか。

齋藤各学年に留学生のクラスが1クラスずつあり、今、一番多いのが3年生のクラスで30人近くいます。1年生と2年生は、まだ来日できていない生徒もいるので、10人弱から20人足らずです。10月からは増える予定です。

日本語の授業は、国語の授業に充当されているのでコマ数もたくさんあります。理系文系やレベル別にクラスは分かれているので、他の先生方とも一緒に担当しています。また、3年生になると大学受験がありますので、進路指導や受験対策の授業も必要になってきます。

東大阪大学柏原高等学校の留学生に日本語の授業をする齋藤さん

東大阪大学柏原高等学校の留学生に日本語の授業をする齋藤さん

今後の人生の方向性を決める大事なターニングポイントでの教育やご指導に関わっていらっしゃるのですね。もう一つ、小学校のほうではどのような活動をなされていますか。

齋藤大阪市の教育委員会で令和2年度6月から小学校に「日本語指導員」を配置し、クラスに入る前の子どもや学校に就学する前の子どもたちに指導をしようという取組みがスタートしました。それで私も指導員として拠点校(小学校)で活動するようになりました。小学生は、高校生とか大人たちと違って、文法から入ってもわからないとかという学習法や教授法の違いもあります。あとは保護者の方に対応する時、国によっては学校に子どもを通学させるという感覚や習慣がない場合もあり、「日本ではこうなんです。」という説明をしても、なかなか理解されないこともあります。文化や習慣が違うという難しさを感じています。子どもたちが快適に学校生活を送れるようになるために、保護者の方々にどう説明して理解していただけるのかといった面も工夫したり考えたりしています。

「子どもの成長や発達段階に応じた言葉の学習」を求めて

それぞれの教育現場で常に創意工夫しながらお仕事されているのですね。では、お仕事もお忙しいと思うんですけど、そんななかで今回の研修にはどのような理由で参加しようと思われましたか。

齋藤私は日本語学校で長年教えていますが、高校生や小学生を相手に教育・支援を行うようになり、成長や発達段階に応じた言葉の学習とはどのようなものなんだろうと模索していました。たとえば、保護者の方々とのやり取り一つにしても、同じ母語のネイティブの方を通してやっているんですけど、なかなかうまくいかない時もあります。他には、新しい環境や人間関係のなかで、子どもたちが学習するにあたり心理的な側面をどう支援していけるのかという部分もいつも考えたり悩んだりしていました。

いろいろな研修にも参加しました。でも、やはり一人で学べることは限られています。ちょうどその時に文化庁の初任者研修について知りまして、スクーリングもあってけっこう大変そうだなと思う一方で、教師としての自分自身の能力の向上とスキルアップなどをこの研修で得られたらと思って参加しました。

で、研修が始まってみたら、いかがだったでしょうか。研修が終わって、振り返ってみるとやはり大変でしたか。

齋藤ほぼ毎週スクーリングが入っていて、ディスカッションも割と多く、乗り切れるか不安でしたが、あっという間でした。いろんな環境や立場にいらっしゃる方々とも出会うことができました。例えばNPOの方や日本語教師の方など、日本語を教えたり指導されている背景も、様々で、そういった方々と話し合いや交流ができて、とても勉強になりました。

普段合うことのない仲間と繋がれるって刺激的で楽しいですよね。では、カリキュラムの面ではいかがだったでしょうか。研修内容のなかで特に参考になったとか、勉強になった部分などありましたら少しご紹介いただけますか。

齋藤どの授業も動画教材も、あとスクーリングも全部よかったんですけど、個人的に特によかったのは、「バイリンガリズムと母語と継承語と第二言語」というタイトルの動画の中で、「子どもは自分の母語が社会的に劣勢であることを敏感に感じ取っていて、やがて母語を捨てて社会的に優勢な言語のモノリンガルになってしまう傾向があると言われている」という内容がありました。この話を聞いた時に、確かに言葉というのは文化的背景とか、社会的背景によって形成されていきますけれども、そうやってモノリンガルになってしまったら、自分は何者なのかというアイデンティティの確立にも大きく関わるんだと思いました。私は単に言葉だけを教えることを目標にしていたのですが、自国の母語の継承とか、そういったことを考えて支援していかなくてはいけないんだと改めて思いました。

支援体制・内容に関する地域間の格差を理解

そこが最も印象に残った内容だったのですね。他の部分はいかがだったでしょうか。スクーリングやアクティビティ、課題などもあったわけなんですけれとも、特に印象的だったことや学びを深められたなと感じる部分などありましたでしょうか。

齋藤例えばスクーリングでは、各自治体により支援が違い勉強になりましたね。スクーリングのなかで課題として、自分の自治体ではどのような支援がされているのかを調べて発表して、グループディスカッションがありました。私の住んでいる地域は、外国人の集住地域で、母語支援とか、ボランティアによる文化講座とか、生活支援などたくさん支援があります。また、ホームページも整備されていて、外国人の方も見やすいように「やさしい日本語」で書かれていたり、コミュニティも形成されていて、住みやすくなっている一方、いわゆる散在地域では、そういった支援がなかったり、支援があっても情報が行き届かずに孤立してしまう人もいたりするということを知って、どの地域も同じように支援があるわけではないと気づき、改めて地域間の格差についても考える機会になりました。

個々の子どもたちに寄り添う教育・支援をめざして

最後に、ご自身の教育活動・支援活動などで研修を今後どのように活かしたいか、今後の抱負について教えてください。

齋藤主に高校や小学校、日本語学校で日本語教師として日本語を教えています。小学生に対して学習支援をするボランティアもしています。そこでも研修の内容が役に立っています。学習支援に関しては、市の教育員会の方や学校の担任の先生と協力しながら日々試行錯誤しています。今回の研修の動画なかでコースデザインに関する講義内容があって、「発達段階においてその子自身が抱えている課題やニーズによって、その子をどう教育すればいいのか」について例を挙げながらの講義がありました。とても実践的な内容でそれが役に立ちましたね。

ただ単に日本語という言葉を教えて生活できるようにしてあげるという考えではなくて、子どもは年齢によっていろんな発達があって、それぞれの発達段階において悩んでいることもあるし、いろんなニーズや背景をもっていたりするから、子ども自身の学校や社会生活、学習や発達、アイデンティティの確立といった役割も日本語指導者は担っていることを学びました。あと、高校生とかになったりすると、将来どうなりたいのかという自己実現のための言葉の教育、ということも学びました。日本語という言葉を教えるだけという視点から、子どもの自己実現のための教育と支援も含めた言葉の教育へと、もっと幅広い視点へとシフトできたことが一番大きな収穫だったと思いますし、まだまだではありますけど、こういった考え方を個々の子どもに寄り添う教育のなかで実現していけたらと思っています。

本日は貴重な数々のお話をたいへんにありがとうございました!
今後のますますのご活躍を祈っております。

令和4年度 日本語教育人材の研修プログラム普及事業

児童生徒等に対する日本語教師【初任】研修

公式ウェブサイト『 ひまわり』

himawari-jle.com

Himawari[ひまわり]

本研修を受けた皆様が太陽(持続可能な豊かな未来)に向かって雄飛し、花咲く様子をあらわすタイトルとしました。また、ひまわりの花言葉は「愛」です。児童生徒たちへの愛が溢れる社会になってほしいという想いも込めました。
私たちは、本事業が子どもの日本語教育・支援活動とその環境構築に際し、人が育ち、つながり、ともに課題解決にむけ協働できるものとなるよう取り組みます。