庭山 恵太さん
KEITA NIWAYAMA
- ご所属
- 公益財団法人横浜市国際交流協会
- 参加コース
- 子ども初任コース
今回インタビューに応じていただいた庭山恵太さんは、公益財団法人横浜市国際交流協会に所属し、日本語学習コーディネーターとして「外国につながる子ども・若者支援事業」や「日本語学習コーディネート事業」等を担当していらっしゃいます。
「外国につながる子ども・若者支援事業」では子どもの学習支援教室で活動する方向けの情報交換会やブラッシュアップ講座等の企画・運営といった、子どもへの直接支援ではなく、主に学習支援者支援を通じた取り組みをしています。そして「就学前の子どもと親の支援」として、未就学児とその親を対象とした日本語教室や子育て支援を、子育て支援団体等と連携しながらおこなっています。
そのようなコーディネート現場に立っていらっしゃる庭山さんが、本研修の「子ども初任コース」に参加希望されるに至ったお考えをうかがいました。
- インドネシアで感じた社会構造への疑問から子どもの日本語教育へ
- 「支援」としてだけでなく、子どもが文化的・経済的に返してくれるものにも目を向ける
- 発達段階の理解や福祉的なネットワークの知識を得て現場で活かしたい
- 外国人児童生徒に対する社会の理解促進も図りたい
インドネシアで感じた社会構造への疑問から子どもの日本語教育へ
外国人児童生徒の教育に興味がおありとのことですが、そもそもこの分野に関心を持たれた経緯を教えていただけますか。
庭山もともと私は外国人児童生徒に限らず、教育全般に興味をもっていました。そして学校教員になりたいと考えていた大学生の時、たまたまインドネシアにボランティア・スタディツアーで行ったんです。その時、教育の重要性はもちろんですけど、それだけでなく、社会的な構造によって貧困を被っている子どもが海外にいっぱいいるんだな、ということに気がつきました。
そこで、学校教員になってただ勉強を教えたり顧問になって部活を指導したりするというより、子どもについて福祉的な視点からも教育を見ていきたいなと思い始めました。最初に行ったのがたまたまインドネシアだったということもあって、その後もずっとインドネシアに興味関心を持ち続けました。そして、大学院が終わってから、独立行政法人国際交流基金の「日本語パートナーズ」事業というプログラムに参加し、インドネシアへ行くことにしました。
7か月のあいだ日本語の ALT (アシスタント教師)をするというものですが、派遣校の先生方、生徒たちがすごくいい人たちで、それまであまり興味がなかった日本語教育が「おもしろいかもな」とシンプルに思い始めました。そして、日本語パートナーズが終わってから420時間の養成講座に通い始めて、日本語教師の資格を取りました。
そこで勉強していくうちに、日本に住んでいる(外国ルーツの)子どもについて知り、システム上うまくいってないところは日本語教育の部分だなと思って、そこでやってみたいと思うようになりました。
外国に行って感じた不公正な社会構造への疑問や怒りから国際NGOで働いたり現地に留まって活動したりする方は多いでしょうけれど、庭山さんは日本国内の子どもの日本語教育の道を選ばれたのですね。なぜそう考えるに至ったか、もう少しおうかがいできますか。
庭山正直なところ子どもに貢献できれば手段はこだわらないほうがいいとは思っています。現実的に日本に住んでいる外国人児童生徒にとって日本語教育の実施が現実的だろうと考えたからです。本来であれば、特に今の日本の状況だと母語の教育もできるところが増えればいいなとはもちろん思っています。ただ、自分が持っているリソース、日本語が母語で、かつ日本に住んでいるというところを考えて、一番効果が出せて、かつ社会で必要とされているところが日本語教育だったということです。
「支援」としてだけでなく、子どもが文化的・経済的に返してくれるものにも目を向ける
本研修に参加を希望した理由として、事前アンケートに「外国人児童生徒の教育に興味があり、この分野に関して体系的に学べると思ったから」とお書きいただいていますね。
庭山大学でこの分野(外国人児童生徒について)を学んでいるわけではないですし、学べるところはほとんどないので、受講を決めました。420時間の日本語教師養成講座でも、「外国人児童生徒が増えており、こういう課題があります」と紹介する程度しかなかったと思います。この研修では、いろんな人と一緒にいろんな事例について話し合い、地域差もあるのでそういったことを知りながら、ネットワークの話や指導法などまで網羅できるのはありがたいなと思って応募しました。
「現在の業務にも活かしたいと考えている」ともお書きいただいています。現在の活動地域の横浜市では、国際交流協会がこうして専門家を雇って日本語教育をやったり、コーディネート業務を任せたりしている点で非常に先進的ですよね。
庭山外国から来た人たちをしっかりサポートする、そのためにも人やお金をだしていくという横浜市の姿勢や今までコーディネート業務をされてきた方々のおかげだと思います。
ただ、これが横浜だけの特別なことではいけないと思っています。外国人や外国人児童生徒に対しての「支援」や「サポート」という言葉が使われますが、そうではなく、文化的にも、経済的にも将来的にはそれが返ってくると個人的には考えています。特に子どもに関してはそれが大きいだろうし、やっぱり子どもが幸せに生活できる社会を作っていきたいと思っています。
おっしゃるとおりですね。そういったことを打ち出している地方の集住地域も出てきていて、ひとつの特徴になっていると思います。
発達段階の理解や福祉的なネットワークの知識を得て現場で活かしたい
本研修で学びたいこととして、「子どもの成長に応じた教育について」とお書きいただいていますね。
庭山私は教育学部出身ではないので、発達段階に沿った教育も学べたらいいなというところはあります。本研修の項目「4. 外国人児童生徒の言語習得と認知発達」の中の「(19)発達段階と言語習得」あたりですね。これを機に、ここでもう少し勉強して深めたいなと思っています。
また、「外国人児童・生徒等の支援のネットワークについて学び、今の仕事である支援者支援に生かしたい」とも。これは講義で学ぶというよりは、皆さんとのディスカッションの中で学びたいということですか?
庭山自分自身が広く、色々な団体、特に福祉的なネットワークと繋がっていくことも大事だなと思っています。そのネットワークを使って子どもに一番必要なこと、例えば「今この子は勉強どうこうっていう問題じゃないから、こっちに繋げよう」などということをやっていけたらな、とも思っています。
そうしたことに目を向けるきっかけは地元、千葉県での学習支援教室の活動でした。学生のときから三、四年ほど勉強を教えたり、そのほかにキャンプやイベントの手伝いをしていました。外国につながりのある子どもはいなかったんですが、家庭や学校での人間関係、健康面のこと、経済面のことなどで問題を抱えている子どもがいました。学習ももちろん大事ですが、生活が安定してこそだと学びました。また、勉強は教えられても、そのほかのアプローチができないと、結局解決しないと感じたことがありました。
他の方のインタビューでも同じような話が出ていました。外国ルーツの子どもに関わる現場で、日本語の文法などを教える役割とは別に、福祉的なことをやりたいという人も多いようですね。
庭山そういった観点を持っている方がかなりいらっしゃいます。先日、横浜市内にある国際交流ラウンジ主催のボランティアさん向け研修会に出たときに、そういった福祉の観点で見られる講師の方を呼んで研修会を実施しており、私も参加してきました。そういう観点を持っている方が国際交流ラウンジにいて、どんどんその考え方を広げようとしてくれているのだと、びっくりしたとともに、僕もすごく勉強させてもらいました。
そういった意味では神奈川県は人材が豊富ですよね。
庭山そうですね。神奈川県ではたくさんの取り組み、また横浜市内には日本語の教室が130以上あります。一方で情報も人も多いので、うまく連携や情報共有していくことを頑張っていければとは思っています。
外国人児童生徒に対する社会の理解促進も図りたい
「外国人児童生徒に対する社会への理解を促進するいわゆる啓発活動もしたい」とのことですが、お考えを詳しくお聞かせいただけますか。
庭山例えば、中学校や高校で「職場体験」をやっても、会社によっては(外国人児童生徒の受け入れを)断る企業もあるという話を聞いたことがあります。社会の理解があれば、もっと越えられる壁があると思うんですよね。多くの方に知ってもらって、外国人児童生徒に限らず子どもがもっといろいろな活動ができる社会になったらいいと思っています。
言葉の壁とか文化の壁があるというだけで、子どもの活動や経験が邪魔されてしまうのはもったいないなと思います。たぶん大人(受け入れ側)も子どもから刺激を受けると思うので、そういうところを啓発して、理解が得られれば、もっといい社会になるんじゃないかなと。
理解促進を図る活動というのは、具体的にどんな活動をされたいのでしょうか。
庭山私は先生たちと直接触れ合う機会はあまり多くはないんですけど、今、私は中学校の部活でテニスを教えていて、指導している学校や他校の先生と話したりはしています。
コロナで日本語教師の仕事が休みになったときに、中学校で勤務しました。
私の勤務していた学校は外国につながる子どもがあまり多くないので、(外国人児童生徒に特有の課題があるという)捉え方をあまりしていないから、「日本語をしゃべれればどうにかなる、頑張れ!」という感じもあります。でもやはりそれは難しい。漢字からどれだけ(私たちが)意味を推測しているかとか、文化の違いとか、そういったところの理解が十分ではないように思います。今でも先生たちとつながりはあるので、ときどき外国人児童生徒に関しての情報共有はしています。
学校の先生の理解は本当に大きいですね。もっと先生の理解があれば、という話はあらゆるところで聞きます。
庭山理解してほしいと言うだけでなく、そこをうまく橋渡ししていかないと、と思っています。例えば、私はイスラム圏のインドネシアで特にイスラム色の強い東ジャワにいた経験があります。イスラムの女の人はいつもヒジャブをかぶっていると思われているんですけど、「部活のときは、外すんですよ女の子も」と(日本の学校の先生に)話すと「そうなの!?全然知らなかった!!」みたいな反応があります。「だから教室の顔と違うので全然わからないんですよ」みたいな話をユーモアや経験を交えて話すと、「そうなんだ、もうちょっと教えて」という風になります。
あとは実際に「ベトナムの割り算の筆算はこういうふうにやるんですよ」と見せると、大人でも「え?どういうこと?」ってなるので、そういった会話を通して、先生たちにもちょっとずつ外国につながる子どもについての理解を浸透させていかないといけないのかなっていうのはすごく感じていますね。「子どものためなんだからやってよ!」っていうのは、先生たちも忙しいので難しいというのは本当に実感します。
教員も多忙で倒れて人手がなくなっていく中で、さらに外国人児童生徒のこともやれというのは無茶だとは思います。一方で、生活言語と学習言語の違いといった最低限の知識を得られる機会は教職課程に組み込んでもらった方がいいなとも思います。
庭山発達障害等への理解が以前よりもずっと進んでいるという印象は、学校現場に勤めている時に受けたので、素地としては外国人児童生徒を見る目、視点というのはあるのに、とは思っています。
(外国人児童生徒の教育に関する)まとまった情報とか、まだまだ検索しても、わかりづらいと思いますし、文章も難しい気がします。学校の先生が、今から急に国際教室を担当することになって勉強するとなったときに、多分右往左往しちゃいますよね。
それだけでも整って、最低限の基礎知識や教材の情報にアクセスできれば、全く経験がない先生も今より少しでも良い授業ができれば、子どもにとってもいいことですよね。ありがとうございました。