地引 愛さん
MEI JIBIKI
- ご所属
- サレジアン国際学園中学高等学校
- 参加コース
- 子ども初任コース(2022年度)
今回インタビューに応じていただいた地引愛さんは、東京都の私立中学高校一貫校で、今春開講したインターナショナルコースに勤務していらっしゃいます。コース開講にあたり、これまで成人を対象とした日本語教育に携わってきた地引さんは、子どもの日本語教育に関して、短期間でさまざまな情報を得なければならなかったそうです。
そんな地引さんが参加しようと思われた「子ども初任コース」についてどのように考えていらっしゃるのか、うかがいました。
- 「大人の日本語教育」を実践してきた私が中学校へ
- 私立中高一貫校に通う多様な背景を持つ生徒
- 始まった研修で「答え合わせ」をしている
- 長い目で見る「楽しみながら、自己表現できる」ようになるまで
なぜ、この研修に参加しようと思いましたか。
地引昨年までは大人を対象とした日本語教育を行っていたのですが、今年の春から私立中高学校に新設された「インターナショナルコース」で日本語を教えることになったんです。国語の授業時間に英語を第一言語とする生徒たちの取り出し授業を行っているのですが、子どもを対象とした日本語教育は初めてのため、とても難しいと感じています。
「インターナショナルコース」とうかがうと、日本にいながら英語による教育が受けられるコースかと。
地引はい。国語をのぞく4教科(数学・理科・社会・英語)は、英語で授業が行われています。本校のカトリックを背景とした教育理念には「広くすべての者への教育」があります。そして、生徒には変わりゆく世界へ飛び立つ「世界市民力」を身につけてほしい。21世紀に活躍できる世界市民の育成が、本校のミッションの一つでもあります。英語力を持った生徒を世界に羽ばたかせるための教育を実践するにあたり、いろいろな文化や背景を持った生徒同士の交流を大切にしています。
では、生徒同士や先生たちとのコミュニケーションは英語で?
地引日本語と英語の両方です。英語による授業があるとはいえ、日本語で実施される生活や活動が多くあります。入学試験を経て、今年度中学1年生として入学した生徒の中には、英語はできるけれど、日本語は難しいという生徒が一定数います。
どんな生徒さんなのでしょう。
地引主な背景は三つです。①両親が日本以外のルーツを持つ生徒、②長い間海外の現地校で教育を受けていた生徒、③日本生まれ日本育ちでインターナショナルスクールなどで教育を受けていた生徒がいます。いずれも英語による教育を受けてきた生徒たちです。
現在、取り出し授業の対象になっている生徒は、①と②です。国語の授業で取り出しを行っていて、音楽や体育などの授業は在籍級で参加していますが、苦労している生徒もいます。インターナショナルコースといっても日本の学校ですから、生活や活動の中にはなじみがないものも多いので、日本語の授業で、(保健室で使う)「ゆたんぽ」を扱ったことがあります。また、体育で剣道をする前には、「正座の仕方」や「声の出し方」、「型について」扱ったこともあります。いずれも、養護教諭や体育担当教員と私が協働して、日本語の授業としてできることを考えたという例です。
中学1年生というと、「大人」と「子ども」のどちらの方法で日本語を習得するのか、難しいところなのでは。講座ではどのような知見を得たいですか?
地引大人と同様の指導法では、限界があると感じています。今、私は子どもにどのように教えるのが効果的なのかを探っている状態です。生徒の第一言語が発達段階であることを前提として、子どものための音声指導、文字指導(特に漢字)、文法指導、語彙指導、文章・談話指導の知識を得たいと考えています。それに、クラスにはさまざまな日本語レベルの生徒が混在しているので、そのようなクラスのコースデザインについても考えたいです。
コースが始まって2か月、2回目のスクーリングが終わったころでしょうか。いかがですか?
地引これまで現場で得た知識や子どもに関わる様々な文献などを読んで、授業をしてきましたが、今の職場では日本語教育について相談できる同僚がいないため、自分の実践が妥当かどうか自信がない部分もありました。研修を通して、これまでの私の実践が間違ってはいなかったことがわかりました(笑)。答え合わせをしているような感覚があります。自信を持つとまでは言えませんが、不安は少なくなってきました。
研修がオンラインで進められること(オンデマンド講義・オンラインスクーリング・Slackを用いた情報交換など)について感じていること、期待することは何ですか?
地引コロナになってから様々な学会や研修のオンラインが増えましたが、得られるものが多いと感じています。もちろん対面するからこそ得られるものもあると思うのですが、遠くの人とすぐ繋がれること、同じ目的を持った人と知り合いになれるという利点が大きいと感じます。
それに、日本語教育全体から見れば子どもの日本語教育の現場は多くないですし、それぞれの現場に特有の事情があるため、物理的に距離が近いエリアで実践をしていても、共通することがあるとも限らないと思っています。物理的な距離に関わらず、同じような状況や現場で悩みを抱えている人と出会えることに期待しています。
最後に、ご自身の教育活動・支援活動などで研修を今後どのように活かしたいか、抱負を教えてください。
地引とにかく、目の前の現場の状況を良くしていきたいです。良くしていくというのは、どういうことなのかと言うと、それは、生徒たちが楽しみながら、自己表現が日本語でできるように支援するということだと考えています。
研修が始まる前は、今の職場は中学校で、日本語学校や大学で教えていた時と比べると「日本語」としての授業時間が少ないことから、成果が見えにくいと焦っていました。特に、子どもは大人と違って、気分が乗らないとタスクに取り組まないということもありますよね。そのような現状からも、焦りがあったのですが、研修を受ける中で、子どもは長い目で見る必要があるということがわかってきました。「生徒が楽しみながら、自己表現を」ということを、1年2年という短いスパンで捉えるのではなく、今の中学1年生の生徒たちが高校を卒業するころまでに達成できたらいいのかなと考えるようになりました。