宮﨑 慶子さん
KEIKO MIYAZAKI
- ご所属
- 和泉市教育委員会
- 参加コース
- 子ども初任コース
今回インタビューに応じていただいた宮﨑さんは、大阪府和泉市教育委員会に所属されていて、委員会からの派遣依頼を受けて「語学指導員」としていくつかの学校を巡回しながら教育と支援の活動に取り組まれています。
こういった活動に携わってこられた宮﨑さんがどうしてこの研修に参加をしようと思われたのか、どんな知見を得て、今後にどのように活かしたいと考えていらっしゃるのかをおうかがいしました。
- 市の「語学指導員」として、現場の課題と向き合う日々
- 高校教諭時代の原点と学び直しからの再スタート
- 自身の実践に対する問題意識から、より専門的な知見を求めて
- 研修での学びを活かして「十人十色の指導」を実現へ
市の「語学指導員」として、現場の課題と向き合う日々
まず、現在所属されている教育委員会での活動内容についてうかがえたらと思います。具体的にはどういった活動を主にされていますか。
宮崎私は委員会からの派遣を受けまして、「語学指導員」という立場で学校を複数校巡回する形ですね。和泉市の学校現場から日本語指導が必要である児童・生徒がいるという申請が教育委員会のほうに上がりまして、教育委員会が児童・生徒の状況に応じ、一年に何回指導するかという方針を決めるんですね。で、私はその決められた回数分、それぞれの学校に伺って教育・支援活動を行っています。
和泉市の場合、最近の状況としては、どういった背景をもつ子どもたちがその制度で語学指導員から教育や支援を受けているのでしょうか。
宮崎本当にいろいろですね。例えば、幼少期の2-3歳くらいの時に日本に来て、もう日常会話はペラペラできる児童もいますし、今年初めて日本に来たという児童もいますし、生まれてすぐ日本には来ているんですけど、ご家庭の事情などもあって、あまり日本語が入っていない児童もいたりしますね。外国ルーツの子どもたちの状況は本当に多岐に渡ります。
すると、本当に守備範囲が広いといいますか、いろんな対応の仕方や教育・支援の方法を工夫する必要がありそうですね。
宮崎もちろん、一人の児童に日本語を支援するのは私だけじゃなくて、そこの学校の先生もされていますし、他の巡回の先生もいらっしゃるので、子どもからすれば何人もの先生から日本語指導を受けているという形の児童もいます。それから、大阪では、今年度(2022年度)からオンラインでも日本語指導を受けられるようになりましたので、私の担当児童のなかでも、並行してオンラインで授業を受けている児童もいます。
オンライン授業を受けている児童さんはそれぞれの自宅で受けているということでしょうか。
宮崎いえいえ、学校で受けられるようになっています。大阪府教育委員会から依頼された先生方が指導をされていると思います。もちろん、学校は学校で、先生がいらっしゃいますから、そんななかで複数の学校を繋げて学んでいる状況ですね。よその学校の児童たちとも繋がれるわけですから、楽しいと思います。
子どもたちが学ぶ現場もいろいろと変わりつつあるんですね。宮﨑さんの場合は、現場で活動されながら、ご自身で一番の問題意識といいますか、課題と感じられている点はなんでしょうか。
宮崎基本的なことなんですけど、やはり指導の回数が少し足りない気がしています。多くても年に22回とかなんですね。すると、週に1回行くか行かないかくらいの程度になりますので、なかなか定着もしにくいですし、ちょっと難しいなと思ったりします。
なるほど。先ほどのお話ですと、結果的に一人の児童は複数の教員から日本語を学ぶ、指導を受けるという形になっているとおっしゃりましたが、だからといって、いわゆるチームティーチングではないですよね。同じ児童を教えている先生方同士の連絡や横の繋がりのようなものはできていますか。
宮崎それが、ないんですよ。それも、現場での悩みの一つですね。もちろん、その児童・生徒が通っている学校の先生には話を聞くことはできますが、同じ児童・生徒を担当している他の語学指導員の方とは情報共有できるような体制にはなっていないですね。使っている教材などの、最小限の情報は、学校の先生を経由して教えてもらっています。
高校教諭時代の原点と学び直しからの再スタート
宮﨑さんは語学指導員のお仕事をされてどれくらいになりますか。
宮崎3年目ですね。以前は日本語支援の必要な生徒を受け入れる高校で、外国人生徒担当兼その生徒たちを主とする部活動の顧問をしていました。
これまでと今のお仕事ではどういった点がもっとも違うなー、と思われたりしますか。
宮崎退職をしてから日本語教師養成講座に行ったんです。10年くらい前から外国ルーツの生徒たちに接していたんで、日本語指導の重要性は認識していました。ですがその時は、我流で勉強して、ちょっとだけ日本語指導もしていた、という感じでしたね。その時から、我流でやるのはよくないと思っていて、退職して少し時間もできましたので、ちゃんと学ぼうと思って養成講座に行った次第です。
そういう、教育一筋の歴史とストーリーがあったのですね。高校にご勤務の時代から外国にルーツをもつ子どもたちとの接点があって、よりちゃんとした教育と指導をしていきたいという思いから、改めて日本語教育を学ばれて現在に至る、ということなんですね。素晴らしいですね。
宮崎大阪には、独自の高校入試制度がありまして、原則、小学校4年生以降に渡日した児童・生徒は特別入試を受けることができるんです。学力検査は数学と英語、及び作文です。しかも、作文は何語で書いてもよくて、日本語じゃなくても自分の得意な言語で書いてよいので、日本語がそれほどできない生徒でも、高校入試に合格するんですね。もちろん年度によって少し違いはありますけど、定員内だったら入れます。
高校に入れたのは良いんですけど、日本語がわからないので五十音から学ぶという生徒もいますね。でも、高校生って半分大人みたいなものですから、早く日本語をマスターしたい、日本語がわからないと自分が困るという意識もはっきりしていますから、他の勉強のためにも、まずは日本語が必要だと考える生徒が多いです。でも、小学生の場合は、なかなか「日本語が上手にならないとダメ」という意識があまりないんですよね。子どもですからね、そこまでではない。特に、しゃべれる子はそんなに困らないし、本人の意識として日本語を勉強しなくちゃ、というふうにはあまり考えないようです。
母語や母文化について、高校生くらいになるといろいろわかっていますから、「こうなんだよ」「ああなんだよ」と話してくれますが、幼い時に来日している子どもの場合、それを知らない子も多いんです。だから、可能な範囲で、日本語の指導も大事なんですけど、そういった母語とか母文化についても調べたり考えたりするような時間も工夫したいと思っていますね。特に子どもが相手の場合はね。
自身の実践に対する問題意識から、より専門的な知見を求めて
今のお話をうかがって、子どもたちの発達過程やアイデンティティの部分も意識しながらの教育実践を心がけていらっしゃることがよく伝わってきました。学び熱心でいらっしゃることも。で、今回はどのような理由から、この研修に参加しようと思われたのでしょうか。
宮崎私自身、まだまだ日本語教師となって日が浅いですし、養成講座では主に留学生対象の日本語指導について学んでいましたから、子どもに対しては異なる部分も多いはずだと考えていました。でも、具体的にどういう点に留意して、どのように指導すればよいのかがわからなかったので、もっと専門的な知見を学びたいと思ったんです。
そういう意味では、動画学習などいかがだったでしょうか。宮﨑さんが、この研修の動画講義などで得られた知見や特に参考になった情報などありましたら、少しご紹介いただけますか。
宮崎例を挙げるとすれば、DLAアセスメントの実施方法や、子どもへのアプローチの仕方などでしょうか。あと、できないことを見るのではなく、できるところをよく褒めるという実施者としての姿勢を学べたと思います。今までも、DLAという名前は知っていたんですけど、具体的にどのように実施するのかまでは知らなかったです。今回の研修でそこを学べて良かったと思います。
特にそこが印象に残っている理由などありますでしょうか。
宮崎そうですね。単なるやり方というよりも、子どもへのアプローチの仕方といいますか、答えを引き出すような問いかけの部分などです。今の仕事で私がすぐDLAアセスメントを実施する立場にはならないと思うんですけど、今後自分の教育実践のなかでも活かせるんじゃないかなと思いました。できる部分に焦点をあてて褒めるという部分ですね。高校教員のときの私はあまり褒めてなかったなーと反省しましたね。
特に子どもって、褒められて伸びるって言いますしね。肯定的フィードバックって大事ですよね。動画講義の作り方などはどうでしたか。
宮崎いろいろ工夫されていて、学びやすかったです。ここまで幅広い知見を、それぞれの専門家から学べて、とても丁寧に説明されているので。
もちろん動画講義の他にも、スクーリングやアクティビティ、課題などもあったわけなんですけれども、特に印象的だったことや学びを深められたなと感じる部分などありましたでしょうか。
宮崎教案作成と模擬授業ですかね。自分で考えるだけでなく、グループで他の方にも見ていただくことで、自分が気づけなかったことに気づけました。あと、オンラインでの授業という設定でしたので、通常の対面授業との違いや、画面での見え方や子どもを退屈させず、集中を切らさないような工夫も学べて良かったです。これまでやったことがなかったのでとても新鮮で、とても勉強になりました。
もちろん養成講座時代も、教案を作って模擬授業をする、というのは経験してますけど、他の人が目を通すということはなかったんですね。自分で作って、そのままするというだけで。模擬授業をしてからいろんな人からコメントをもらうことはありました。でも今回の研修では、教案を作った段階から何度かいろんな人に見ていただけて、意見もいただいて、教案も何回か修正しましたね。これが、大変といえば大変だったんですけど、苦労した分、これまでは気づけなかった部分もいろいろ気づけたと思います。「あ、そういう見方もあるんだ」とか、「そういうアプローチもできるんだ」とかですね。本当によかったです。
研修プログラムでの学び方といいますか、研修の組み立て方はいかがでしたか。同期型と非同期型の組み合わせになっていて、スクーリングも実施されましたので。研修の方法などについて何かお感じになったことや役立った部分などありましたら教えていただけますか。本事業の特色や魅力だと感じる部分などありましたら併せて教えていただけると嬉しいです。
宮崎この研修プログラムの最大の魅力はやはりよく計画、準備された、その中身にあると思います。これまでもいろいろお話させていただいた通りで。そのうえで、実施形態に関してですが、やはり非同期型の部分もあったことでとても助かりました。自分のペースで決められた動画を見ることができるのは本当に良かったです。あと、毎回、少人数でのグループ分けがあって、他の方のご意見も聞くことができたのは、代えがたいものがありました。おかげで、自分の視野がとても広がったと感じています。
少し大変だった部分は、やはりレポート提出でしょうか。かなりハードでしたね(笑)。私はそれでも、現場で多少、高校生指導の経験があったので書けたんですけど、中には、まだ経験がなくて、これからやっていきたい、関わっていきたいという方もいらして、実際の経験があまりない方々にとってはレポート作成がもっと大変だっただろうなと思います。
研修での学びを活かして「十人十色の指導」を実現へ
確かに。そういった側面もあるかもしれないですね。貴重なご意見をありがとうございます。最後に、ご自身の教育活動・支援活動などで研修を今後どのように活かしたいか、今後の抱負について教えてください。
宮崎まだ、活かせるところまで来ていないと思うんですけど、これから出会う子どもたちのバックグラウンドも理解した上で、どこに躓きがあるのか把握して、教科指導も兼ねた日本語指導ができるように活かしていきたいと思います。
特に今回の研修に参加してから、改めて強く思ったのは「十人十色の指導」が重要だという点かもしれません。これまでの経験からも、そういう認識は多少なりともありましたけど、これからは研修で学んだ専門的知見や得られた気づきを活用して、そういう実践を実現していきたいと考えています。
本日は貴重な数々のお話をたいへんありがとうございました!
今後のますますのご活躍を祈っております。