下村 京子さん
KYOUKO SHIMOMURA
- ご所属
- 長野県上田市立第三中学校
- 参加コース
- 講師育成コース(2020年度)
今回インタビューに応じていただいた下村京子さんは、長野県上田市立第三中学校で今年度から進路指導主事として勤務なさっています。研修受講時は前任校で特別支援学級の担任をされていました。上田市といえば、「外国人集住都市会議」の活動を思い浮かべますが、学区が変わると、生徒のつながる国・地域や言語的背景も異なるなかで、国語科の教員として生徒とかかわっていらっしゃいます。
- 国語科担当の教員として、多様な生徒と関わること
- 多様な言語的背景を持つすべての生徒に「意味のある国語の授業」を
- 力量を持つ「普通の教員」が日本語教育への理解を深め、知識や技能を身につける研修を
- ひとつずつの取り組みが「地域の財産」になるように
国語の教員として、特別支援教育や進路指導のお仕事をなさっている下村さんと日本語教育の接点は?
下村私は、元々「言葉・言語」に興味があったんです。大学では、大学院の授業しかなさらない教授のところに“押しかけて行って”日本語教育で卒業論文を書きました(笑)。国語の教員になったのは「結果として」です。
生徒との関わりは研修受講時と現在で変化がありますか?
下村研修受講時は、特別支援学級の担任や主任、特別支援教育コーディネーターとして「生徒の今・現在」という時間を中心に関わっていました。家庭と学校で使用する言語が異なる生徒もいましたが、例えば、日本語習得や日本語を使用しての学校生活に苦労をしているように見える姿をどう理解するか、生徒本人や保護者、また同僚の教員たちと考えたり支えたりすることが中心でした。その中では、どうしても生徒の「できないこと」に目が向きがちなのですが、私が大切にしていたのは「できること」を確認するということです。
今年度、進路指導主事としては「生徒のこれから・未来」といった時間を中心に関わっているということかと思います。
受講当時から現在まで変わらないこととしては、国語科の教科担任として、多様な言語的背景を持つ生徒たちが一つの教室で、それぞれの言語的背景に応じた「学ぶ意味のある国語の授業」を追究していることがあります。あくまで通常の教科指導の一環として、という部分であり、「日本語」のみを取り立てて指導しているというわけではありません。
「学ぶ意味のある国語の授業」ですか。
下村生徒たちは現在、日本の学校という場で、日本語で学んでいるわけですが、JSLの子どもも、日本ルーツの子どもも将来、海外に出て生活する可能性が十分にあるのが今の世の中だと思うのですね。そういう未来がある生徒にいろいろな文化と言語の中で生きていく力を、日本語を学ぶことを通して身につけられるような授業を、と考えています。
「普通の国語の授業」に参加する生徒たちは、JSLの生徒たちも学年相応の日本語の文章は理解できるし、授業への参加もできるんです。だからこそ、これまでの国語の授業において、いわば言葉の表面上の意味の確認作業のみで済ませてきたことを具体的な言語事象として説明するように心がけています。例えば、物語や小説においては「心を動かされる仕組み」を、文章として現れている言語事象を基に、最終的には生徒自身が説明する・できるようになることに挑戦しています。
なぜ、この研修に参加しようと思ったのですか?
下村勤務する地域で教員を対象に、いずれ研修会や勉強会を企画したいと考えています。長野県には「教育会」という教員による勉強会もあるのですが、日本語教育を対象としたものはまだありません。それらを含めたさまざまな形の研修会や勉強会を通して、日本ルーツの子も含めた多様な言語的背景を持つ子どもが「日本語を通して学ぶ」ということについて、幼保小中高における各教科の先生方と考えていけたらよいと。
子どもの日本語教育については、専門的な知識や技能は必要になると思いますが、その「専門的な知識や技能」は、通常の、いわゆる一般的な教員が持っている知識や技能と分断されたものではなく、それらの延長上にあるものだと感じています。しかし、表面上の、「日本語ではない言葉を話す」ということに驚いてしまい、普段、自分たちが教室で実践している活動や指導法で日本語教育にも応用できることがたくさんあることに気がついていない同僚がたくさんいます。いわゆる、一般的な教員として研修や経験を積み重ねている「力のある普通の教員」にこそ、子どもの日本語教育についてもきちんとした研究や理論があるということについて理解を深めてもらいたいと思っています。研修会を通して、そうした先生方が自身の経験や積み重ねてきたことを基に、さらに充実した指導や支援を行うための幅を広げるための一助になれたらと思っています。
「講師育成コース」を受講された下村さんの課題意識はそこに?
下村はい。一見「簡単なこと」のように見えることの中に、実は専門的な知識や裏付けが必要となることがあると思うのです。先に申し上げたいわゆる「一般的な教員」は、そのことを自身の教職経験を通してよく知っているため、例えば前の年度と同じ教材を授業で扱う場合でも、「昨年度より『良い授業』をしよう」と準備をして授業に臨みます。実際にこの研修を受講して、その積み重ねを行う際の観点と、この研修で提供されている内容には、大きく重なる部分がありました。また、子どもの日本語教育に関する専門的な内容についても、私自身が20年以上前に大学の卒業論文として取り組んで以降、細々と個人的に学んできたことが整理された状態で提供されていました。「(自分が話せる)日本語だから」「子どもが対象だから」できるんじゃないか、という気持ちで子どもの日本語支援を始める人にとっては「良い意味でのハードル」になっているのではないかと思います。
講座の中では、専門的な概念や用語もたくさん扱われていましたし、何より、子どもを対象とする教育では「子ども」の発達段階を考えることが大切です。年少者だからこそ「成長」や「発達」といった、子どもの中で起きていることを専門的な概念を通して指導者や支援者が理解しておくことはとても重要です。さらに中学生段階においては、身体的にはある程度「大きく」なってしまっていることが、内面の成長について、教員間でも共通認識がしづらくなっていることにつながっているのではないかと。
「課題」がはっきりしているからこそ、研修会や勉強会を立ち上げようという明確な思いがあるのですね。そういう視点で研修を見たときに、感じたことは?
下村運営の方々は、この分野に関心を持ってくださる人に対して「歓迎」の気持ちを持っていらっしゃることがよく伝わってきた印象があります。一方で、現場の現状や課題を考えると、「質の担保」に視点を移して、もう少し「厳しさ」もあったほうが、実際に支援を必要とする児童生徒の役に立つのではないかと感じたところもありました。
最後に、下村さんの現場での活動につなげられたこと、今後、つなげたいと考えていることについて教えてください。
下村参加していた時から、研修のカリキュラムなどについて勤務校の同僚に紹介してきました。子どもの日本語教育における専門性や、現場に届いていないだけで行政としてすでに整えられている体制も少なくないことを、機会を捉えて発信しています。
学校教育の現場では、教員や行政担当者の異動がありますから、環境が変わってしまったり支援が長く続かなかったりすることがあります。今後は、ひとつひとつの取り組みが「地域としての財産」になるような活動を行っていきたいと考えています。研修や勉強会を通じて、同僚である教員たちには、自分たちがすでに持っている技能を生かせるのだ、と伝えたいですね。